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東京地方裁判所 昭和40年(行ウ)103号 判決 1971年8月06日

東京都台東区東上野一丁目一九番一二号

原告

吉原唯市

右訴訟代理人弁護士

相原秀年

東京都板橋区板橋一丁目四四番六号

被告

板橋税務署長

野地実

右指定代理人

青木康

石倉文雄

川合弘

大塚守男

右当事者間の所得税賦課決定取消等請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

原告は「被告が原告の昭和三七年分所得税につき昭和三九年六月二日付をもつてした決定処分および無申告加算税賦課決定処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は主文同旨の判決ならびに本案につき「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二原告の主張

(請求の原因)

一  被告は、原告の昭和三七年分所得税につき昭和三九年六月二日付をもつて総所得金額(本件の場合一時所得のみ)を一、八二七、五〇〇円、所得税額を四二〇、一二五円とする決定処分および無申告加算税四二、〇〇〇円の賦課決定処分をした。

二  原告は右処分を不服として同月二二日被告に対し異議申立てをしたところ、右異議申立ては国税通則法第八〇条第一項第二号(昭和四五年法律第八号による改正前のもの)により審査請求とみなされ、東京国税局長は昭和四〇年四月二二日これを棄却する旨の裁決をなし、その裁決書謄本はその頃原告に送達された。

三  右決定処分は、原告が昭和三七年中に株式会社石原電機商会から家屋(東京都台東区御徒町一丁目五一番地所在家屋番号五一番の八、木造メツキ鋼板葺店舗兼居宅一棟建坪一階一二・二五坪、二階三・七五坪)の立退料として四、〇〇〇、〇〇〇円を受領したとして、これを原告の一時所得と認定したことによるものである。

四  しかしながら、右金員を受領したのは吉原文江であり、原告ではないから、これを原告の一時所得と認定したのは誤りであり、したがつて、右決定処分は違法であり、またこれに対応して右無申告加算税賦課決定処分も違法であるから、その取消を求める。

(被告主張の本案前の坑弁に対する反論)

本件訴えを出訴期間を徒過したものとして不適法とすることは、左記理由により憲法第三二条(裁判を受ける権利)第一一条(基本的人権の享有)の規定に違反し許されない。

すなわち、原告の妻吉原文江は下谷税務署長を被告として昭和三九年一二月一四日東京地方裁判所に贈与税の申告無効の確認および更正処分等の取消を求める訴えを提起しその訴状において前記立退料は原告が受領したものでない旨述べているのであつて、その趣旨とするところは、原告の昭和三七年分所得税についてした被告の前記各処分の取消を求める旨をも含めて述べられているのであるから、本件訴えにつき形式的に出訴期間を徒過したものとすることは憲法第三二条、第一一条に違反し、許されないというべきである。

第三被告の主張

(本案前の抗弁)

本件訴えは出訴期間を徒過した不適法な訴えである。

すなわち、原告主張の前記決定処分および無申告加算税賦課決定処分に対する審査請求の裁決書謄本は昭和四〇年四月二八日原告に送達されているのであるから、原告は同日裁決のあつたことを知つたものとみなされ、したがつて行政事件訴訟法第一四条第一項により右裁決書謄本の送達の日から三カ月以内に訴えを提起すべきところ、本件訴えが提起されたのは同年九月一一日であり、三箇月の出訴期間を徒過していることは明らかである。

(請求原因に対する答弁)

原告主張の請求原因一の事実は決定処分の所得税額の点を除き認める。右の所得税額は四二〇、一二〇円である。同二および三の事実は認める。ただし、裁決書謄本が送達になつたのは前記のとおり昭和四〇年四月二八日である。同四の主張は争う。

第四証拠関係

原告は、甲第一ないし第七号証(第七号証は写)、第八号証の一ないし五(第八号証の一ないし四は写)、第九号証(写)、第一〇号証の一、二、第一一、第一二号証、第一三号証の一ないし三、第一四ないし第一六号証、第一八号証の一ないし三、第一九号証の一、二、第二〇号証を提出し、証人吉原文江、同和泉三千男、同増淵仁、同石川唯美、同渡辺秋雄の各証言および原告本人尋問の結果を援用し、乙第一号証、第三ないし第七号証(第七号証は原本の存在とも)の成立は認めるが、その余の乙号各証は公文書であることのみ認め、成立は不知と述べた。

被告は乙第一号証、第三ないし第九号証(第七号証は写)第一〇号証の一、二を提出し、証人長谷川春美、同石川唯美の各証言を援用し、甲号各証(甲第七号証、第八号証の一ないし四、第九号証は原本の存在とも)の成立は認めると述べた。

理由

被告が原告の昭和三七年分所得税につき昭和三九年六月二日付をもつて総所得金額(本件の場合一時所得のみ)を一、八二七、五〇〇円、所得税額を四二〇、一二〇円とする決定処分(もつとも、所得税額の点については、原告は右金額より五円多く主張しているが、それは決定通知書(成立に争いのない甲第一号証)に税額として四二〇、一二五円との記載があることによるもののようである。しかし、右税額の記載は、記載自体から明らかなように課税標準に所得税法所定の税率を乗じて算出したものを記載したものであり、同通知書中決定納税額として記載されている四二〇、一二〇円(これは右算出の四二〇、一二五円につき国税通則法第九一条第一項(昭和四二年法律第一四号による改正前のもの)を適用して一〇円未満の端数を切り捨てたものである。)が右決定処分の所得税額となるのである。)および無申告加算税四二、〇〇〇円の賦課決定処分をしたこと、原告が右各処分を不服として同月二二日被告に対し異議申立てをしたところ、右異議申立ては審査請求とみなされ、東京国税局長は昭和四〇年四月二二日これを棄却する旨の裁決をしたことは当事者間に争いがない。そして、公文書であることにつき当事者間に争いがないので真正に成立したものと推定すべき乙第八、第九号証、第一〇号証の一、二によれば、右裁決書謄本は昭和四〇年四月二八日原告に送達されたことが認められるので、特段の事情の認められない本件にあつては、原告は右送達を受けた日に右裁決のあつたことを知つたものと認めるのが相当である。

しかるところ、本件訴えが提起されたのは同年九月一三日であることは記録上明らかであるから、本件訴えは行政事件訴訟法第一四条第一項所定の出訴期間を経過した不適法な訴えであるといわざるをえない。

なお、原告は、本件訴えを不適法とすることは憲法第三二条、第一一条の規定に違反する旨主張するが、その理由としてるる述べる原告の主張は全く独自の見解によるものであつて到底採用することはできない。

よつて、本件訴えは不適法であるから却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高津環 裁判官 小木曾競 裁判官 海保寛)

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